「不良老人の文学論」の感想・レビュー!不良老人が文学・世界情勢を滅多切り!

こちらの記事では、書籍「不良老人の文学論」を紹介しています!Amazon

本作品執筆当時すでに82歳を迎えていた著者が、自らを「不良老人」と称して文学から世界情勢に人類の未来までを滅多切りにしていきます。

同年代の文学者が次から次へとこの世を去っていくのを目の当たりにした、著者の言い知れない焦燥感が伝わってきます。

以下、読んだレビューを書いています。ぜひご覧ください!

おすすめの書籍:不良老人の文学論

「不良老人の文学論」は筒井康隆によって、2018年の11月20日に新潮社から発行されているノンフィクション書籍です。

著者は動物学者でもあり天王寺動物園の園長でもあった、筒井嘉隆の長男として1934年に大阪市で生まれました。

先祖代々は浄土宗を信仰していましたが、カトリック聖母園という幼稚園に通うようになりイエス様の教えを叩き込まれます。

この当時にシスターから聞かされた逸話を活かして発表した戯曲が、「ジーザス・クライスト・トリックスター」です。

大学はプロテスタント系の同志社でしたが、文学部に進学したことがきっかけで興味対象は宗教的な神から精緻な宇宙へと移っていきました。

大学卒業後に就職した乃村工藝社を4年で退職した後に、自身のスタジオを立ち上げて前衛派の作家たちと交流を持っていきます。

「霊長類南へ」や「フル・ネルソン」を始めとするSF小説を次々と世に送り出し、星雲賞に輝いたことは有名です。

文芸雑誌「新潮」に連載した「夢の木坂分岐点」では谷崎潤一郎賞を、実験的長編小説「虚人たち」では泉鏡花賞を獲得しました。

大手芸能プロダクション・ホリプロに所属して俳優業にまで手を出すなど、その多才ぶりは小説家の枠に収まりきりません。

本作品執筆当時すでに82歳を迎えていた著者が、自らを「不良老人」と称して文学から世界情勢に人類の未来までを滅多切りにしていきます。

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不良老人の文学論

不良老人の文学論のレビュー①読んだきっかけ

大御所の作家やお堅い文芸評論家とはひと味違った、文学評論や自伝を前々から読んでみたいと考えていました。

ひとりのSF作家が自身の半生や読書・執筆体験を振り返っていくという点では、もう1冊思い浮かんだ本があります。

日本経済新聞出版社から2008年の2月1日に刊行されている自伝的エッセイ、「小松左京自伝ー 実存を求めて」です。

「不良老人の文学論」にも「小松の親分」のニックネームで登場する、「日本沈没」などで名高いベストセラー作家の本に惹かれました。

SF第1世代としての誇りを胸に抱いて、筒井康隆が頭角を表し始める前の1964年から創作活動を続けていたこの分野における開拓者と言えるでしょう。

激動の時代を先陣を切って駆け抜けていったふたりの鬼才の生きざまには、深く重なり合う時期や不思議な縁があります。

社会学や落語に造詣が深い小松版よりも、心理学から演劇論にマルクス兄弟の喜劇映画まで取り入れた筒井作品の方に興味があったのが決め手です。

マックス&デイブ・フライシャーによってパラマウント映画から配給された1930年代流行のアニメ映画、ベティ・ブープのイラストで装丁されているのも魅力的ですよ。

地元の駅ビルの中にテナントを構えている大型新刊書店で取り寄せしてもらい、2019年の9月20日に購入しました。

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不良老人の文学論

不良老人の文学論 のレビュー②お気に入りポイント・満足な点

井上ひさしや丸谷才一を始めとする、長年に渡って親交が深かった流行作家へのレクイエムが込められていました。

同年代の文学者が次から次へとこの世を去っていくのを目の当たりにした、著者の言い知れない焦燥感が伝わってきます。

自分自身に残されている時間の短さを噛み締めながら、最後の長篇大作の完成へと挑んでいく決意が勇ましかったです。

若い頃からブラックなユーモアやナンセンスギャグを持ち味にしてきた著者らしく、過激な発言は相変わらずでした。

「日本でも早く安楽死法案を通してもらうしかない」や、「また日中戦争が見たい」等にはハラハラさせられます。

かつてはマスコミによる自主規制に反発して絶筆宣言までした著者らしく、表現の自由を守り抜くための強い意志は健全です。

高齢者ドライバーによる事故や免許証返納問題に代表されるような、タイムリーな話題も取り上げられていました。

年齢を重ねることによって生じていく不自由さばかりではなく、老年期ならではの楽しみや喜びが溢れています。

幼稚園の頃から読書家で絵画の才能に恵まれ異性にもモテモテだという、ごく普通の孫自慢が微笑ましかったです。

迫りくる老後への漠然とした不安感を抱いているであろう、中高年世代に当たる皆さまは是非とも手に取ってみてください。

不良老人の文学論のレビュー③不満だった点

敢えて物足りないところを挙げるとするならば、これまでの著作目録や詳しい解説文が付いていない点でしょうか。

著者にとっては思い入れがある長篇第1弾の「48億の妄想」から、最後の長篇と銘打たれている「モナドの領域」まで。実にバラエティーに富んだラインナップの、39編の長編小説の知られていないエピソードが掘り下げられていました。

この機会に再読してみたり読み落としを探してみたくなっただけに、巻末に簡単な案内を用意して欲しかったです。

初の短編集となった「東海道戦争」から、今現在のところでは最終作となっている2015年作「世界はゴ冗談」まで。

これらのコレクションの中には希少価値が高いものや絶版本も含まれているために、愛読者のために分類してもらえると有難いと思います。

本編の他にも付録として、「作家はもっと危険で、無責任でいい」というタイトルのインタビュー記事が載っていました。

僅かに13ページほどのインタビューでは、作家生活50年を越える筒井康隆の人となりを知ることは出来ません。

文芸雑誌の担当編集者がインタビュアーであるために、どうしても当たり障りのない質問に落ち着いてしまいます。

どうせならば普段から付き合いのある中原昌也や町田康など、一回り年下の個性派作家をぶつけてみると面白かったかもしれません。

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まとめ

購入したきっかけ・理由や実際に使用した感想についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

見てきた通り、特徴は以下の通りです。

  • 自らを不良老人と名乗る筒井康隆の文学論!
  • 高齢期の社会問題や、楽しみにも振れた作品!

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